8月の終わりに唐突にFBで「今夜は水の上で眠る」という宣言をしたまま放置していたんだけど、フランス南部のミディ運河 (Canal du Midi) で宿泊も可能な無免許船を5日間借りたという知人から急に招待を受け、2泊で便乗クルージングを楽しんできた。そういえば、2016年に地方の統合があって、今は行政的にはこの地方は Languedoc-Roussillon ではなくてOccitanie って言うのよね。

ミディ運河とは?

大昔から南フランスでは物流に関する大きな課題があった。

大西洋と地中海の間を船でショートカットする方法はないかなぁ?

そんな課題をクリアしたのが17世紀、ルイ14世の時代です。大西洋と地中海の間にあるこの地方に運河を二つ設けて船での往来を実現。そのうちのひとつ、トゥールーズから東側の運河が、このミディ運河です。設計したのは、ピエール・ポール・リケ (Pierre-Paul Riquet)というベジエ (Béziers) 出身の人。

とはいえ、ここでさらなる問題が。運河を引くのは良いけど、トゥールーズから地中海沿岸までってけっこう高低差がある。ちょっとこれを何とかしたい。

そこで運河のあちこちにエクリューズ(閘門/こうもん)を設置して、人工的に水面を上下させて船を運行させることで、高低差を克服した。

トンネルやエクリューズをいくつも通り抜ける運河沿いにプラタナスの並木道が続く、そんなミディ運河はユネスコの世界遺産にも登録されています。ガール橋 (Pont du Gard) やカルカッソンヌ (Carcassonne) (いずれも世界遺産)と並んで、この地方の3大見どころのひとつですが、眺めるだけでなく、昔の人の「大西洋から地中海への夢のショートカットコース」の一部を無免許船でたどるという体験型観光ができるのが面白い。

運河の制限速度は時速 8km、トンネルや橋を通るときは時速 3kmだから、かなりまったりしたプログラムになるよ。

ミディ運河に到着

初日は家で早めの夕食を済ませてから車で南へひとっ走り。途中2分くらいのトイレ休憩1回だけだったから文字通りひとっ走りだったわ。平日夜なこともあり高速を南下する車は長距離トラックばかりでスムーズなドライブに。3時間半ほどでColombiers という町で知人の船に合流。今夜合流予定のほかの若者カップルも到着。船上で軽く飲んでから眠りにつく。

夜間に目的地に到着すると、翌朝景色を初めて見てびっくりできるというお楽しみがついてくるので面白い。ここはどんなところなんだろう?

翌朝は出発前に水やパンの買出しに。船の水は飲用に好ましくないので、飲み水は店があるところで大容量で買出し必須。しかも今日は暑くなるようなので、水が足りなくなったら大変だ。船は昨日西の方から到着しているそうなんだけど、昨夜からの合流組のために一度逆行して見どころのトンネルを見に行くとのこと。    

Tunnel du Malpas (マルパストンネル)

ほどなくして、Tunnel du Malpas というトンネルに到着した。


17世紀にこの地の丘にトンネルを掘り始めたところ、丘の地盤の固い層の下に脆い層があることがわかり、崩壊の恐れがあるということで当時の宰相コルベールから工事の中止命令が下され、運河の道筋を今後どうするか決めるため、お役人が視察に来ることになった。ところがコース変更をしたくなかった(←色々理由はあるけど、自分の町ベジエを運河が通らなくなったらいやだからとか何とか…)ピエール・ポール・リケは、こっそり大急ぎでトンネルを掘らせ続け、アーチ形の補強を施した仮トンネルを視察の日に披露し、安全性なんかもアピールして工事の継続を勝ち取った。こうして1680年に完成したのがこのTunnel du Malpasです。リケさんの執念のトンネルだね。

現在このトンネルの下には、さらに近くの池の排水用のトンネルと、19世紀の鉄道のトンネルが通り、全部で3層になっているらしい。

トンネル内には歩道もあるので、近くに船を停めて辺りを少し散歩。暑い…。このあとは、最大の見どころ目指して船を進めていきます。

15時30分。Écluses de Fonseranes に到着。少し離れたところにベジエの町が眺められる。

ただし、今日はもうここを通過できないので、明日の朝8時半まで待っててね、とのこと。とはいえ明日の朝その時間帯に通れる船の数も限られるので、今いる3番手のこのポジションからUターンしてどこかに行くのも微妙な状態。私たちの船の後ろにもけっこうな数の船が停泊しつつある。ということでエクリューズの手前に船を停めて明日の朝までここで過ごすことに。ちなみにミディ運河は日没以降は運航してはいけないことになっています。

ということで、その夕方FBに投稿したのがここで撮った写真。

時間があるからベジエの町を見に行こうかとも思ったんだけど、暑いし今日の夕食は私が作ることになっていたので断念。日本人のアウトドア大量調理でおなじみの「カレーライス」を作って皆にふるまってみた(カレーは材料持参で船の中で調理。ご飯は家で炊いて持参)。久しぶりに屋外で食べるカレー、おいしい !! というわけで、7人で平らげた。

Écluses de Fonseranes

翌朝8時30分。いよいよ、ミディ運河最大の見どころ、Écluses de Fonseranes を下っていく時間です。

「Écluses」と複数形なことからもわかる通り、17世紀末に造られた閘門が階段状に全部で9つ連続しています。

自分たちでその都度ロープをひっかけるなどの作業をし、水位が下がるのを待って門を通り、7つの閘門(という数え方で良いのかな?水位が上下する閘室は6か所)を通過していきます(動画の奥にある一番下の閘室は19世紀以降使われておらず、コースはここで右折)。

終点Agdeまで

ところで、今朝起きたらひとつ問題が発生していた。船に水が無い…飲料水はあるんだけど、食器を洗ったりトイレを流したりする水道水が無い。

昨日から停泊していた場所の向かいに観光用ミニ・トレインの乗り場と公衆トイレがあって、昨日は「明日の朝までトイレの目の前で過ごすのかぁ…」なんて思ったりしたものだけど、結局この公衆トイレが出発前に重宝することに。

こうして、閘門を通り過ぎた後、次のベジエの港に寄って給水です。

本来は運河に沿ってずっとプラタナス並木が続いていて、それがこのミディ運河の典型的な景色なんだけど、並木が無い区域もあちこちにある。プラタナスの病気のため伐採されたらしい。また、新たにプラタナスの若木が植えてある場所もあった。

運河に沿った並木道を自転車で通り抜ける人、ハイキングする人などもいた。自転車でも面白そうだね(そしてチャリが船を追い越していく…)。

こうして運河を進みいくつかのエクリューズを通りAgdeまで行ってクルージング終了です。

このクルージング、5日間はさすがにちょっと長かったんじゃないの?と勝手に想像。しかも夏場でエアコンが無い船だから中でも外でも暑くてつらかったんじゃないかな?なんて思ったりしましたが、私たちは2泊程度の便乗だったので、面白い体験として満喫できました。最終日は曇ってたけど涼しかったから快適でした。

ちなみにミディ運河、水はあまりきれいじゃなく、落ちたりしたらいやなかんじなので船から落ちないように要注意。

Adgeに知人の車が停めてあり、その車でColombiers まで各車の運転手はそれぞれの車を取りに行って、ここに戻って来て荷物(と残りの人)を乗せ、このあとは知人の家でお泊り会です。2日かけてここまで移動してきたけど、車だと大した距離じゃないのよね。

余談だけど、船の操縦を中心になって担当していたのは今回のメンバーで一番若い16歳の男子。なんか操縦が異様にうまかった。