スイスに住み始めた当初の外出はやはり近場のフリブール州をはじめフランス語圏が多かった。
でも、少しずつ行動範囲が東に向かって拡大し始めました。隣町から先はフランス語が通じないという環境にも慣れてきたからね。しかも、お隣りのベルン州の山なんて私がスイスに期待していた風景がいっぱい。
「スイス」と言われて外国人がイメージする風景はドイツ語圏にあるのね…。そして、山だけでなくチューリッヒやルツェルンなどの町、まだ知らない美しい村にも興味あるわ。
こうしてドイツ語圏の様子をまとめた観光ガイドブックが欲しくなってきた。お目当ての情報を探すにはインターネットが便利。でも一括して見るには紙のガイドブックが捗る気がする。それにページをパラパラめくりながら新たな発見をする楽しみも捨てがたいし、旅気分が盛り上がる。
そこで、紙のガイドブック求めて近所の本屋へ。
ところが !!
え?無いの?ゼロ?
フランス語圏については、ハイキングや自転車、グルメ散歩など各種テーマのガイドが目白押し。なのにチューリッヒの見どころガイドブックはおろか、たった1時間程度で行ける近くのインターラーケン周辺のハイキング本すら見あたらない。まさかのゼロ。
輸入物のフランス製海外旅行ガイドの「スイス」なら、チューリッヒ情報も何とか…というありさま。
一方、ベルンの本屋のガイドブック売り場には、ドイツ語圏のガイドが豊富に!! ただし全てもれなくドイツ語…。そして、レマン湖などフランス語圏のガイドは無い。
同じ国なのに、国内旅行用ガイドブックが買えないってどういうこと??
日本で言うと、東京で京都のガイドブックが買えないってこと?関が原辺りから西に行けば京都ガイド買えるよ、京言葉で書いてあるから読解力要るかもしれないけどね…みたいな?関東の人はかわりに外国の「JAPAN」ていうガイドでも見ておいて…て感じ?
しかもこれ、実際には福岡と鹿児島くらいの距離感で起きている現象ね。
…そんなわけで、輸入品として割高になったフランス製のスイスのガイドブックを買うのも微妙。今度フランスに行ったついでに買ってこよう。ちなみに観光案内所のサイトや資料は多言語になっている場合が多いです(でも、ネットは見出しだけ訳してあって肝心の本文は訳されてないケースもわりと多い…)。
Röstigraben – ロシュティ(レシュティ)の溝とは?
スイスは小さい国土の中で、4つの言語圏がある多言語国家です。にもかかわらずバランスをとって国が成り立っている。
そしてスイスには Röstigraben(ロシュティの溝)という言葉があります。ロシュティというのはスイス(ドイツ語圏)を代表するジャガイモ料理。つまりロシュティの溝とは、食文化も含めたドイツ語圏とフランス語圏の文化的境界線のこと。フリブールのサリーヌ川はその象徴です。
河岸では、色が異なる2つの石を束ねたデザインのRöstigrabenモニュメントが、「文化圏の境界線があるけどうまくやってるよ」と地味にアピールしてる。
- フリブールのRöstigraben(ロシュティの溝)のモニュメントはこちら → 【スイス】じわじわと来る良さが魅力のフリブール Fribourg
ロシュティの溝は本当に溝だった
特にスイスガイドブック業界の清々しいレベルの分断ぶりは、サリーヌ川で例えるとこんな感じかな?

まさに、対岸は絶壁。
これは出版のみならず流通全般に言えることみたい。
それぞれ隣国の影響を強く受けていて、フランス語圏の人はフランス市場の本を買い、ドイツ語圏の人はドイツ市場の本を買うわけです。同様にフランス語圏ではフランスでおなじみのショップも多いけれど、ドイツ語圏に入ると見かけなくなったりします。
なお、イタリア語圏とドイツ語圏の間にはここまでの溝は無い様子。ドイツ語のティチーノ州のガイドブックも充実しているし、南国気分が味わえるティチーノ州は観光地として人気だそう。Röstigrabenという単語も、ドイツ語圏とフランス語圏との境界に特化した言葉なのですよ。
分断があるからこそお互いの文化圏のガイドブックがあったほうが色々捗るとも思うんだけど、敢えてやたらと踏み込まない(?)ことでお互いを尊重する方針なのかもしれませんね。

















